【オーストラリア】日豪とNZでクアッドプラスを=マクダーモット元豪空軍准将

中国がインド太平洋地域で勢力拡大を図る中、オーストラリアで5月に発足したアルバニージー新政権にとって、日豪の安全保障協力が重要な外交課題となっている。駐日武官を務め日豪の安全保障協力の現場に長く携わり、5月に両国の協力関係の歴史と今後の展望に関する著書を出版したピーター・マクダーモット元オーストラリア空軍准将に、新政権の安全保障政策などについて聞いた。【NNA豪州編集部】  ――アルバニージー首相は前政権の安全保障政策を維持するとしています。  アルバニージー政権は、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」や原子力潜水艦の導入、日米豪印の協力枠組み「クアッド」など、前政権の決定を受け入れています。また、労働党政権は同盟関係の枠組みの中で、インド太平洋地域における国益を守るとしており、モリソン前政権と基本的に同じです。中国との関係については、慎重に管理しなければならないとしており、対中国でも前政権と同じアプローチを続けるでしょう。  ただ、優先順位や強調点が前政権から微妙に変わるでしょう。  例えば、労働党政権は雇用創出を好み、新型潜水艦建造だけでなくより多くの武器の国内製造を、前政権よりも重視するでしょう。  ――岸田首相は、日本はAUKUSに参加しないと表明しました。  AUKUSは、オーストラリアが米英から原子力潜水艦技術を目玉とする軍事機密などを受容できるようにするための協定です。日本には、戦略的状況などから原子力潜水艦を推進する必要がありません。私は、日本がAUKUSに参加するとは考えていません。  ――日本がファイブ・アイズに参加するのは簡単ではないと見られています。  ファイブ・アイズは英語圏5カ国の情報共有システムで、第二次世界大戦中に形成された取り決めが起源です。  日本とオーストラリア、米国は何らかの形で共に紛争に巻き込まれた場合、3カ国で制限なく情報を共有することになると私は考えています。  現在、戦術レベルで日本の哨戒機は、米国やオーストラリアの哨戒機P8、およびインドの同等機と共同活動ができる相互運用性が実現しています。ただ、データリンクや情報共有ができる水準には至っていません。  私が関係者に聞き取りしたところでは、日本が情報を完全に保護できるとメンバー国が考えるにはまだもの足りないようです。  日本が信頼と情報保護を確実にするには、情報の漏えい時に厳しい罰則を科す「公務秘密法」や「防諜(ぼうちょう)法」と同じ法律が必要でしょう。  私は情報共有のための「ファイブ・アイズ・プラス」の設立を提案しています。日本やドイツのほか、フランスが含まれるかもしれません。  ――日豪の安全保障協力はどのように進めるべきでしょう?  日豪両国は、北東アジアで中国の脅威にさらされている一方、米国への依存から脱却するべきだと理解しています。  両国は07年に「安全保障協力に関する共同宣言(JDSC)」、17年に日・豪物品役務相互提供協定、22年には日豪円滑化協定(RAA)にそれぞれ署名しました。こうした変化は、安倍晋三首相(当時)が15年に憲法9条の解釈を変更し、日本が一定の状況下で集団的自衛権を行使できるようにしたことに起因します。  これらを踏まえてオーストラリアと日本は、軍事的協力を反映した新しい形の安全保障について、同盟か条約、または正式な声明として発表するべきでしょう。  ――日豪が関わる多国間関与・協力についての提案は?  私は2カ国間の戦略的交流(第1層)、それを補完するミニ国際的取り決め(第2層)、地域的・世界的な多国間取り決め(第3層)の3層構造を提案しています。  3層の基層は、既存の米国との同盟システムに基づくものです。中層は、安全保障に焦点を当てたもの、より広範な経済やその他の分野に焦点を当てたものなど、さまざまな多国間安全保障組織を含みます。第3の層はクアッドのような複数国がつながった包括的なネットワークです。  安倍元首相の祖父で首相を務めた岸信介氏は「ダブルダイヤモンド」(連続した三角形=3カ国関係)を提唱しました。安倍元首相は11年にこの考えに基づき、日本とインド、米国の3カ国、15年に日本とインド、オーストラリアの3カ国をまとめ、クアッドにつながる合意を得ました。  3カ国関係のうち2カ国は、地理的に隣接するアジア諸国と協力関係を結んで新たな3カ国関係が構築可能です。私は現行のクアッドに、ニュージーランド(NZ)やフランス、ドイツなどを加えた「クアッド・プラス」を中心に据えることを提唱しています。

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