【舛添要一が語る世界と日本】清和会に分裂の火種 首相は安倍消滅をどう使う

10日に投開票が行われた参議院選挙は、自民党の圧勝で終わった。  選挙区45議席、比例代表18議席、合計63議席で、単独で改選議席125の過半数を制した。  野党は振るわず、立憲民主党は改選23議席を下回り、選挙区10議席、比例代表7議席で合計17議席にとどまった。  国民民主党は改選7議席で、選挙区2議席、比例代表3議席で合わせて5議席であった。  共産党は、改選6議席に届かず、選挙区1議席,比例区3議席の4議席であった。  社民党は、改選1議席を死守した。  立憲民主党の敗北であるが、小沢一郎王国の岩手県で、30年ぶりに自民党が議席を回復した。また、新潟県でも、参議院の幹事長が自民党の新人に敗れている。大分県では、国民民主党の現職が、自民党の新人に敗北した。  野党で勢力を伸ばした党もある。  日本維新の会は、改選6議席から、選挙区で4議席、比例代表で8議席の計12議席と増やした。比例区では、立憲民主党を上回り、野党でトップになっている。れいわ新撰組は、0議席から選挙区で1議席、比例代表で2議席の合計3議席を獲得した。NHK党、参政党は、0議席から、いずれも比例区で1議席を得ている。  今回の選挙区の投票率は52.05%と、前回を3.25%上回っている。低投票率となることが懸念されたが、投票日の2日前に起こった安倍元首相銃撃事件が有権者の足を投票所に運ばせたようである。  銃規制の厳しい日本で、選挙期間中に遊説中の元首相が凶弾に倒れるという大事件が起こり、世界に襲撃が走った。私も警察の警護の対象となる役職を務めたことがあるが、SPに守られた経験からしても今回は警備に問題があったようである。  今回の犯人のように、自ら銃を製造する場合には、規制が難しいし、アメリカの警察を違い、日本の警察は銃による狙撃を前提にした警備シフトになっていない。とくに、選挙の時は、候補者も応援弁士も、演説を聴こうとして集まった有権者と握手をするなどして群衆と接近するので、警護は難しくなる。  欧米では、街宣車で大音量で遊説し、街頭演説するスタイルの選挙戦はない。大きな会場に有権者を集めて行う集会が主流であり、入り口でセキュリティ・チェックを行うので、武器の持ち込みは不可能である。今回の犯人も、岡山の演説会場で銃撃することを目論んだが、会場に武器を持ち込めずに、断念したという。  戦前からの伝統である街頭演説そのものを見直すことも必要ではなかろうか。  欧米式の安全を確保した閉鎖空間での選挙集会方式にしたり、SNSを活用したりすることを考えるべきである。今回の事件を真似ようとする者も出てくる可能性がある。要人警護のみならず、選挙のあり方もまた再検討したほうがよい。  安倍元首相の暗殺は、多くの無党派層が自民党に投票する誘因となったようである。  時事通信社の出口調査によれば、無党派層の比例代表投票先のトップは自民党(26%)である。選挙は、無党派層の動きが大きな影響を及ぼす。「弔い合戦」的な同情票が、今回は自民党を利したようである。  憲法改正との絡みで言えば、参院選の結果、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の改憲4政党で、改正の発議に必要な3分の2(83議席)の多数を超える93議席となった。最終的には、国民投票で決まるが、各党の改憲案には大きな隔たりがあり、共通した改正草案を起草できるかどうかが先ず問題である。ただ、形式的には発議が可能となったことは、今後の改正論議に拍車をかけることになろう。  自民党内の力学については、最大派閥の長が死去したことが、少なからぬ影響を及ぼしそうである。  安倍派は誰を後継のトップに据えるのか。その人選によっては、分裂ということもありえよう。また、岸田首相は安倍氏の掣肘受けることなく自由に政権を運営できそうだが、それはまた党内の反発を生むことにもなる。  これから3年間、衆院の解散がないかぎり国政選挙のない「黄金の3年間」となる。岸田首相は、11日に記者会見し、「与党内で一致結束の体制を固め、難局突破に取り組んでいく」と述べた、それができるのかどうか。岸田政権が長期政権になるとは断言できない。

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